リセプション》に出席したある侯爵が主な人物となる。例によってその人物の肖像画。彼はそこを去り馬車を駆って街々を驀進し、平民どもを蜘蛛の子のように散らし、その挙句ガスパールという男の子供を轢き殺す。その場へあの酒店の主人ドファルジュが現れる。一人の人間を殺して、金貨を一枚投げ与え、何かの品物を壊してその賠償をすませたかのようにまた馬車を駆って去る侯爵。その侯爵をただ一人きっと見つめるマダーム・ドファルジュ。それから、馬車で流れ去る仮装舞踏会のように著飾った上流人士。自分たちの穴から出てそれを眺め続ける鼠のような貧民たち。昼は夜となり、仮装舞踏会は晩餐の明るい灯火に輝き、鼠は暗い穴の中でくっつき合って眠り、万物はそれぞれの道を流れる。
第八章 田舎における貴族 窮乏し疲弊したフランスのある田舎。前章の翌々日の日没頃から夜へかけて。侯爵は彼の領地へ旅行馬車で帰って行く。穀物の乏しい田園。すべてが貧乏くさい村。貧苦に窶れた村民。その村の宿駅の前でしばらく停った侯爵は、青い帽子を持った一人の道路工夫を訊問して、脊の高い男が一人自分の旅行馬車の下にぶら下って来たことを知る。宿駅長のガベルが現れる。彼は徴税吏をも兼ねている。ガベルに命令を与えてから、侯爵はまた出発する。途で会う一人の寡婦の歎願を押し除けて、日がとっぷり暮れてから彼の館に到著する。彼は著くとすぐに、イギリスから来るはずのムシュー・シャルルが著いているかと尋ねる。
第九章 ゴルゴンの首 侯爵の館。その夜から翌朝へかけて。一目であらゆるものを石に化せしめるというゴルゴンの首が検分したかのような、何から何までが石で出来た堂々たる建物。月もなく風もない真暗なひっそりとした晩。やがて塔の中の豪奢な一室で侯爵が食卓に向っていると、侯爵の甥のシャルルが到著するが、このシャルルとは意外にも数箇月前イギリスでの叛逆事件の被告であったチャールズ・ダーネーである。挙止だけは優雅で心の冷酷な、抑圧を唯一の永続する哲学と信じている、骨の髄からの封建貴族の叔父。貴族の暴虐圧制と誅求搾取とを嫌って、財産継承の権利を抛棄し、国を去り、家名を棄てて、イギリスで働いて生活しようとする、新しい思想を奉ずる甥。この二人(殊に前者)はその会話やわずかな動作などによって驚くべく巧妙に書かれている。甥を別室へ送り出して自分の寝室で寝ようとする侯爵。その日の昼の旅行や前々日のパリーでのことの追想。それから深い夜の闇の三時間。この夜から朝へかけての叙述もまた最も傑れている部分の一つである。夏の夜は早く次第に明けかかり、遂に館でも夜がすっかり明け放れると、館の大鐘が鳴り響き、人々があわただしく駈け※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り、ただならぬ模様。侯爵もまた寝室で石になったのである。彼を突き刺した短刀に附いている紙片の文句によれば、ドファルジュの仲間であるジャークの一人に暗殺されたのであって、暗殺者が前日に侯爵の馬車の下にぶら下って来た脊の高い男であり、パリーで侯爵に子供を轢き殺されたガスパールであることは暗示されている。この物語の主要な人物は既に全部出揃い、読者はそれらの人物について一通りは知ったのである。
[#ここで字下げ終わり]
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[#地から2字上げ]第二巻未完。
底本:「二都物語 上巻」岩波文庫、岩波書店
1936(昭和11)年10月30日第1刷発行
1967(昭和42)年4月20日第26刷発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「彼奴→あいつ 恰も→あたかも 或る→ある 如何→いか・いかが 聊か→いささか 何時→いつ 一層→いっそう 今更→今さら 謂わば→いわば 所謂→いわゆる 於て→おいて 大凡→おおよそ 於ける→おける 恐らく→おそらく 己→おれ 却って→かえって 彼処→かしこ か知ら→かしら 難い→がたい 且つ→かつ 嘗て→かつて かも知れ→かもしれ 位→くらい 極く→ごく 此処→ここ 毎→ごと 悉く→ことごとく 此→この 而→しかし 然る→しかる 屡々→しばしば 暫く→しばらく 直ぐ→すぐ 頗る→すこぶる 即ち→すなわち 是非→ぜひ 其奴→そいつ・そやつ 大層→たいそう 大体→だいたい 大分→だいぶ・だいぶん 唯→ただ 但し→ただし 直ち→ただち 忽ち→たちまち 度→たび 度々→たびたび 多分→たぶん 給え→たまえ 給う→たもう (て)頂→いただ (て・で)貰→もら・もれ 何処→どこ・どっ 乃至→ないし 尚・猶→なお 尚更→なおさら 何故→なぜ に拘らず→にかかわらず 筈→はず 甚だ→はなはだ 甚し→はなはだし 程→ほ
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