中へ入って来る人たちの足音だと想像したのでございました。」
「僕がそいつを僕の生活の中へ引受けてあげますよ!」とカートンが言った。「僕は[#「僕は」に傍点]文句なしで無条件でやります。やあ、大群集がわれわれに迫って来ますよ、|マネット嬢《ミス・マネット》。そして僕には彼等が見えます、――あの稲光《いなびかり》で。」彼がこの最後の言葉を附け加えたのは、窓に凭れかかっている彼の姿を照した一条の鮮かな閃光がぴかりと輝いた後であった。
「それから僕には彼等の音が聞える!」と彼は、一しきりの雷鳴の後で、再び附け加えた。「そら、来ますよ、速く、凄じく、猛烈に!」
彼の前兆したのは雨の襲来と怒号とであって、その雨が彼の言葉を止《や》めさせた。その雨の中ではどんな声でも聞き取れなかったからである。忘れがたいくらいの猛烈な雷鳴と電光とがその激湍のような雨と共に始った。そして、轟音と閃光と豪雨とは一瞬の間断もなく続いて、夜半になって月が昇った頃にまで及んだ。
聖《セント》ポール寺院★の大鐘が澄みわたった空気の中で一時を鳴らした頃、ロリー氏は、長靴を穿いて提灯を持ったジェリーに護衛されて、クラークンウェルへの帰途に就いた。ソホーとクラークンウェルとの途中には処々に淋しい路があったので、ロリー氏は、追剥の用心に、いつでもジェリーをその用事に雇っておいたのだ。もっとも、いつもはこの用事はたっぷり二時間も早くすんでしまうのであったが。
「何という晩だったろう! なあ、ジェリー、」とロリー氏が言った。「死人が墓場からでも出て来かねないような晩だったね。」
「わっしは、そんなことになりそうな晩てえのは、自分じゃ見たことがありませんよ、旦那。――また、見たいとは思いませんや。」とジェリーが答えた。
「おやすみなさい、カートン君。」とその事務家は言った。「おやすみなさい、ダーネー君。わたしたちはいつかもう一度こういう晩を御一緒に見ることがありましょうかなあ!」
おそらく、あるだろう。おそらく、人々の大群集が殺到しつつ怒号しつつ彼等に追って来るのをもまた、見ることがあるだろう。
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第七章 都会における貴族《モンセーニュール》
宮廷において政権を握っている大貴族の一人であるモンセーニュール★は、パリーの宏大な邸宅で、二週間目ごとの彼の接見会《リセプション》を催していた。
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