注意を払いながら訊いた。
 彼の眼は大きく――それはおそらくそこを見渡したときの私の眼ほどではなかったかもしれないが――緊張したように輝いていた。
「いえ、いません」
「わたしにも見えない」
 二人は再びうちにはいって、ドアをしめて椅子にかかった。私はいまこの機会をいかによく利用しようかということを考えていたのである。たとい何か彼を呼ぶものがあるとしても、ほとんど真面目に論議するにも足らないような事実を楯《たて》にとって、彼がそれを当然のことのように主張する場合には、なんと言ってそれを説き導いてよかろうか。そうなると、わたしははなはだ困難な立場にあると思ったからである。
「これで、私がどんなに困っているかということが、あなたにもよくお分かりになったろうと思いますが、いったいなんであの幽霊が出るのでしょうか」
 私は彼に対して、自分はまだ十分に理解したとは言いかねると答えると、彼はその眼を爐の火に落として、時どきに私の方をみかえりながら、沈みがちに言った。
「なんの知らせでしょうか。どんな変事が起こるのでしょうか。その変事はどこに起こるのでしょうか。線路の上のどこかに危険がひそんでいて、
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