るのを見たくなかった。で、まだ早いのに押入れの戸の蔭から出て来た。そして、彼の両腕の中に走り寄った。その間二人の小クラチットどもはちび[#「ちび」に傍点]のティムをぐいぐい引っ張って、鍋の中でぐつぐつ煮えている肉饅頭の歌を聞かせてやろうと台所へ連れて行った。
「で、ティムはどんな風でした?」と、クラチット夫人は、先ずボブが軽々しく人の云うことを本気にするのを冷かし、ボブはまた思う存分娘を抱き締めた後で、こう訊ねた。
「黄金のように上等だった」と、ボブは云った。「もっと善かったよ。あんなに永く一人で腰掛けていたもので、どうやらこう考え込んでしまったんだね。そして、誰も今まで聞いたこともないような不思議な事を考えているんだよ。帰り途で、私にこう云うんだ、教会の中で衆皆《みんな》が自分を見てくれれば可いと思った。何故なら自分は跛者だし、聖降誕祭の日に、誰が跛者の乞食を歩かせたり、盲人を見えるようにして下さったかと云うことを想い出したら、あの人達も好い気持だろうからとこう云うんだよ。」
 皆にこの話をした時、ボブの声は顫えていた。そして、ちび[#「ちび」に傍点]のティムも段々しっかりして達者に
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