っていた。そして、その霧の中の重い方の分子は煤けた原子の驟雨となって、あたかも大英国中の煙突がことごとく一致して火を点けて、思う存分心の行くままに烟を吐き出してでもいるように降って来た。この時候にも、またこの都の中にも、大して陽気なものは一つとしてなかった。それでいて、真夏の澄み渡った空気だの照り輝く太陽だのがいくら骨を折って発散しようとしてもとても覚束ないような陽気な空気が戸外に棚引いていた。
 と云うのは、屋根の上でどしどし雪を掻き落していた人々が、屋根上の欄干から互いに呼び合ったり、時々は道化た雪玉――これは幾多の戯談口よりも遥に性質《たち》の好い飛道具である――を投げ合ったり、それが旨く中ったと云って、からからと笑ったり、また中らなかったと云って、同じようにからからと笑ったりしながら、陽気に浮かれ切っていたからである。鳥屋の店はまだ半分開いていた、果実屋の店は今日を晴れと華美を競って照り輝いていた。そこには大きな、円い、布袋腹の栗籠が幾つもあって、陽気な老紳士の胴衣のような恰好をしながら、戸口の所にぐったりと凭れているのもあれば、中気に罹ったように膨れ過ぎて往来へごろごろ転がり
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