パイも、プッディングも、果物も、ポンス酒も、瞬く間にことごとく消え失せてしまった。同様に部屋も煖炉も、赤々と燃え立つ焔も、夜の時間も消えてしまって、二人は聖降誕祭の朝を都の往来に立っていた。街上では(寒気が厳しかったので)人々は各自の住家《すまい》の前の舗石の上や、屋根の上から雪をこそげ落しながら、暴々しい、しかし快活な、気持ちの悪くない一種の音楽を奏していた。屋根の上から下の往来へばたばたと雪が落ちて来て、人工の小さな吹雪となって散乱するのを見るのは、男の子に取っては物狂おしい喜びであった。
屋根の上の滑《なめら》かな白い雪の蒲団と、地面の上のやや汚《よご》れた雪とに対照して、家の正面は可なり黒く、窓は一層黒く見えた。地上の雪の降り積った表皮《うわかわ》は、荷馬車や荷車の重たい車輪に鋤き返されて、深い皺を作っていた。その皺は、幾筋にも大通りの岐かれている辻では、幾百度となく喰い違った上をまた喰い違って、厚い黄色の泥濘や凍り附いた水の中に、どれがどうと見分けの附かない、縺れ合った深い溝になっていた。空はどんよりして、極く短い街々ですら、半ばは溶け、半ばは凍った薄汚い霧で先が見えなくな
前へ
次へ
全184ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ディケンズ チャールズ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング