クルージは答えた。「人間は自分の仕事さえ好く心得てりゃ、それで沢山のものです。他人の仕事に干渉するには及ばない。私なぞは自分の仕事で年中暇なしですよ。左様なら、お二人さん!」
 自分達の主旨を押して追求したところで、とても無駄だと明白に看て取ったので、紳士達は引き下がった。スクルージは急に自分が偉くなったように感じながら、平生の彼よりはずっと気軽な気持で、再び仕事に取り掛った。
 その間にも霧と闇とはいよいよ深くなったので、人々は馬車馬の前に立って、途中その馬を案内する御用を承わりたいと申し出でながら、ゆらゆら燃える松明を持って歩き廻った。年数を経た教会の塔は――その銅鑼声の古い鐘はいつも壁の中のゴシック型の窓から何喰わぬ顔してスクルージを見下ろしていたものだが、その塔も見えなくなった。そして、あの高い所にあるあの凍った頭の中で歯ががちがち噛み合ってでもいるように、後に顫えるような震声を曳いて、雲の中で一時間目毎、十五分目毎の鐘を打った。寒さはいよいよ厳しくなった。大通りでは、路地の隅で、二三の労働者が瓦斯管の修繕をして居た。そして、火鉢の中に火を沢山燃して置いて、その周囲に襤褸を来た
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