えるものもなかった。そんな事を云おうものなら、それこそ頭から異端である。クラチットの家の者で、そんな事を暗示して顔を赧らめないような者は一人だってなかったろう。
 とうとう御馳走がすっかり済んだ、食卓布は綺麗に片附けられた。煖炉も掃除されて、火が焚きつけられた。壺の調合物は味見をしたところ、申分なしとあって、林檎と蜜柑が食卓の上に、十能に一杯の栗が火の上に載せられた。それからクラチットの家族一同は、ボブ・クラチットの所謂団欒(円周)、実は半円のことであるが、それを成して、煖炉の周囲に集った。そして、ボブ・クラチットの肱の傍には家中の硝子器と云う硝子器が飾り立てられた――すなわち水飲みのコップ二個と、柄のないカスタード用コップ一個と。
 これ等の容器は、それでも、黄金の大盃と同様に壺から熱い物をなみなみと受け入れた。ボブは晴れ晴れしい顔附きでそれを注いでしまった。その間火の上にかかった栗はジウジウ汁を出したり、パチパチ音を立てて割れた。それからボブは発議した。――
「さあ皆や、一同に聖降誕祭お目出とう。神様よ、私どもを祝福して下さいませ。」
 家族の者一同はそれに和した。
「神様よ、私ど
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