ずに再び足で立った。
 時計が十一時を打った時、この内輪の舞踏会は解散した。フェッジウィッグ夫妻は入口の両側に一人ずつ陣取って、誰彼の差別なく男が出て行けば男、女が出て行けば女と云うように、一人々々握手を交して、聖降誕祭の祝儀を述べた。二人の丁稚を除いて、総ての人が退散してしまった時、彼等はその二人にも同じ様に挨拶した。で、こうして歓声が消え去ってしまった。そして、二人の少年は自分達の寝床に残された。寝床は店の奥の帳場の下にあった。
 この間中ずっと、スクルージは本性を失った人のように振舞っていた。彼の心と魂とはその光景の中に入り込んで、自分の前身と一緒になっていた。彼は何も彼もその通りだと確信した、何も彼も想い出した、何も彼も享楽した。そして、何とも云われない不思議な心の動乱を経験した。彼の前身とディックとの嬉しそうな顔が見えなくなった時、始めて彼は幽霊のことを想い出した、幽霊が、その間ずっと頭上の光を非常にあかあかと燃え立たせながら、じっと自分を見詰めているのに気が附いた。
「些細な事だね」と、幽霊は云った、「あんな馬鹿な奴どもをあんなに有難がらせるのは。」
「些細ですって!」と、スクルージは問い返した。
 精霊は二人の丁稚の云ってることに耳を傾けろと手真似で合図をした、二人は心底を吐露してフェッジウィッグを褒め立てているのであった。で、彼がそうした時、幽霊は云った。
「だってなあ! そうじゃないか。あの男はお前達人間の金子をほん[#「ほん」に傍点]の数ポンド費やしたばかりだ、高々三ポンドか四ポンドだろうね。それが、これほど讃められるだけの金額かね。」
「そんな事じゃありませんよ」と、スクルージは、相手の言葉に激せられて、彼の後身ではない、前身が饒舌《しゃべ》ってでもいるように、我を忘れて饒舌った。「精霊どの、そんな事を云ってるんじゃありませんよ。あの人は私どもを幸福にもまた不幸にもする力を持っています。私どもの務めを軽くも、また重荷にもする、楽しみにも、また苦しい労役にもする力を持っています。まああの人の力が言葉とか顔附きとかいうものに存しているにもせよです、すなわち〆めることも勘定することも出来ないような、極く些細な詰まらないものの中に存しているにもせよです、それがどうしたと云うのです? あの人の与える幸福は、それがために一身代を費やしたほど大したものなので
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