とは、何事もかつてその通りに起ったのだと云うことは、他の子供達が皆楽しい聖降誕祭の休日をするとて家へ帰って行ったのに、ここでもまた彼ひとり残っていたと云うことだけは、彼にも分っていた。
彼は今や読書していなかった、落胆《がっかり》したように往ったり来たりしていた。スクルージは幽霊の方を見遣った。そして、悲しげに頭を振りながら、心配そうに戸口の方をじろりと見遣った。
その戸が開いた。そして、その少年よりもずっと年下の小娘が箭を射るように飛び込んで来た。そして、彼の首のまわりに両腕を捲き附けて、幾度も幾度も相手に接吻しながら、「兄さん、兄さん」と喚び掛けた。
「ねえ兄さん、私兄さんのお迎いに来たのよ」と、その小っぽけな手を叩いたり、身体を二つに折って笑ったりしながら、その子は云った。「一緒に自宅《うち》へ行くのよ、自宅へ! 自宅へ!」
「自宅へだって? ファンよ」と、少年は問い返した。
「そうよ!」と、その子ははしゃぎ切って云った。「帰りっ切りに自宅へ、永久に自宅へよ。阿父さんもこれまでよりはずっと善くして下さるので、本当にもう自宅は天国のようよ! この間の晩寝ようと思ったら、それはそれは優しく物を言って下すったから、私も気が強くなって、もう一度、兄さんが自宅へ帰って来てもいいかって訊いて見たのよ。すると、阿父さんは、ああ、帰って来るんだともだって。そして、兄さんのお迎いに来るように私を馬車へ乗せて下さったのよ。で、兄さんもいよいよ大人になるのね!」と、子供は眼を大きく見開きながら云った、「そして、もう二度とはここへ帰って来ないのよ。でも、その前に私達は聖降誕祭中一緒に居るのね。そして、世界中で一番面白い聖降誕祭をするのね。」
「お前はもうすっかり大人だね、ファン!」と、少年は叫んだ。
彼女は手を打って笑った。そして、彼の頭に触ろうとしたが、あまり小さかったので、また笑って爪先で立ち上りながら、やっと彼を抱擁した。それから彼女はいかにも子供らしく一生懸命に彼を戸口の方へ引っ張って行った。で、彼は得たり賢しと彼女に随って出て行った。
誰かが玄関で「スクルージさんの鞄を下ろして来い、そら!」と怖しい声で呶鳴った。そして、その広間のうちに校長自身が現れた。校長は見るも怖ろしいような謙譲の態度で少年スクルージを睨め附けた。そして、彼と握手をすることに依ってすっかり彼を慄
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