に頭を下にして立っている! 好い気味だな。僕はそれが嬉しい! 彼奴がまた何の権利があって姫君の婿になろうなぞとしたのだ!」
 スクルージが笑うような泣くような突拍子もない声で、こんな事に自分の真面目な所をすっかり曝け出しているのを聞いたり、彼のいかにも嬉しそうな興奮した顔を見たりしようものなら、本当に倫敦市の商売仲間は吃驚したことであろう。
「あすこに鸚鵡がいる!」と、スクルージは叫んだ。「草色の体躯に黄色い尻尾、頭の頂辺《てっぺん》から萵苣《ちしゃ》の[#「萵苣《ちしゃ》の」は底本では「萵苔《ちしゃ》の」]ようなものを生《は》やして。あすこに鸚鵡がいるよ。可哀そうなロビン・クルーソーと、彼が小船で島を一周りして帰って来た時、その鸚鵡は喚びかけた。『可哀そうなロビン・クルーソー、どこへ行って来たの、ロビン・クルーソー?』クルーソーは夢を見ていたのだと思ったが、そうじゃなかった。鸚鵡だった、御存じの通りに。あすこに金曜日《フライデー》が行く。小さな入江を目がけて命からがら駆け出して[#「駆け出して」は底本では「騙け出して」]行く、しっかり! おーい! しっかり!」
 それから彼は、平生の性質とは丸で似も附かない急激な気の変りようで以て、昔の自分を憐れみながら、「可哀そうな子だな!」と云った。そして、再び泣いた。
「ああ、ああして遣りたかったな」と、スクルージは袖口で眼を拭いてから、衣嚢に手を突込んで四辺を見廻わしながら呟いた。「だが。もう間に合わないよ。」
「一体どうしたと云うんだね?」
「何でもないんです」と、スクルージは云った。「何でもないんです。昨宵私の家の入口で聖降誕祭の頌歌を歌っていた子供がありましたがね。何か遣れば可かったとこう思ったんですよ、それだけの事です。」
 幽霊は意味ありげに微笑した。そして、「さあ、もっと他の聖降誕祭を見ようじゃないか」と云いながら、その手を振った。
 こう云う言葉と共に、昔のスクルージ自身の姿はずっと大きくなった。そして、部屋は幾分暗く、かつ一層汚くなった。羽目板は縮み上がって、窓には亀裂が入った。天井からは漆喰の破片《かけら》が落ちて来て、その代りに下地の木片が見えるようになった。しかしどうしてこう云う事になったかと云うことは、読者に分らないと同様に、スクルージにも分っていなかった、ただそれがまったくその通りであったと云うこ
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