脚になり、また二十本脚になり、また頭のない二本脚になり、また胴体のない頭だけになると云うように、その瞭然《はっきり》した部分が始終揺れ動いていた。で、それ等の消えていく部分は濃い暗闇の中に溶け込んでしまって、その中に在っては輪廓一つ見えなかったものだ。そして、それを不思議だと思っているうちに、幽霊は再び元の姿になるのであった、元のように瞭然《はっきり》として鮮明な元の姿に。
「貴方があのお出での前触れのあった精霊でいらっしゃいますか」と、スクルージは訊ねた。
「左様!」
その声は静かで優しかった。彼の側にこれほど近く寄っているのではなく、ずっと触れてでもいるように、へんてこに低かった。
「何誰《どなた》で、またどういう方でいらっしゃいますか」と、スクルージは問い詰めた。
「私は過去の聖降誕祭の幽霊だよ。」
「ずっと古い過去のですか」と、スクルージはその侏儒のような身丈《せい》恰好《かっこう》に眼を留めながら訊いた。
「いや、お前さんの過去だよ。」
たとい誰かが訊ねたとしても、恐らくスクルージはその理由を語ることが出来なかったろう。が、彼はどう云うものか、その精霊に帽子を被せて見たいものだと云う特別な望みを抱いた。で、それを被るように相手に頼んだ。
「何!」と幽霊は叫んだ、「お前さんはもう俗世界の手で、私の与える光明を消そうと思うのか。俗衆の我欲がこの帽子を拵えて、長の年月の間にずっと私を強いて無理に額眉深にそれを被らせて来たものだ。お前さんもその一人だが、それだけでもう沢山じゃないかね。」
スクルージは、決して腹を立てさせるつもりではなかった、また自分の一生の中いつの時代にも故意に精霊を侮辱した覚えなぞはないと、うやうやしげに弁解した。それから彼は思い切って、何用あってここへはやって来たのかと訊ねた。
「お前さんの安寧のためにだよ」と、幽霊は云った。
スクルージはそれは大変に有難う御座いますと礼を述べた。しかし一晩邪魔されずに休息した方が、それにはもっと利き目があったろうと考えずにはいられなかった。精霊は彼がそう考えているのを見て取ったに違いない。と云うのは、すぐにこう云ったからである。
「じゃ、お前さんの済度のためだよ。さあいいか!」
こう云いながら、幽霊はその頑丈な手を差し伸べて、彼の腕をそっと掴まえた。
「さあ立て! 一緒に歩くんだよ。」
天気と時
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