ゃ、誰のだと云うんだよ」と、女は答えた。「あの人も(ああなっては)毛布がなくたって風邪を引きもしまいじゃないか、本当の話がさ。」
「まさか伝染病で死んだんじゃあるまいね、ええ?」と、老ジョーは仕事の手を止めて、(相手を)見上げながら云った。
「そんな事はびくびくしないでも可いよ」と、女は云い返した。「そんな事でもありゃ、いくら私だってこんな物のためにいつまでも彼奴の周りをうろついているほど、彼奴のお相手が好きじゃないんだからね。ああ! その襯衣《シャツ》が見たけりゃ、お前さんの眼が痛くなるまで好く御覧なさいだ。だが、いくら見ても、穴一つ見附ける訳にゃ行かないだろうよ、擦り切れ一つだってさ。これが彼奴の持っていた一番上等のだからね。また実際好い物だよ。私でもこれを手に入れなかろうものなら、他の奴等はむざむざと打捨《うっちゃ》ってしまうところなんだよ。」
「打捨《うっちゃ》るってどう云うことなんだい?」と、老ジョーは訊ねた。
「彼奴に着せたまま一緒に埋めてやるのに極まってらあね」と、その女は笑いながら答えた。「誰か知らんが、そんな真似をする馬鹿野郎があったのさ。でも、(良い按排に)私が(それを見附けて、)もう一度脱がして持って来ちまったんだよ。そんな目的には(キャリコで沢山さ。)キャリコで間に合わなかったら、キャリコなんてえものは何にだって役に立ちはしないよ。死骸には(麻の襯衣)同様しっくり似合うものね。彼奴があの(麻の)襯衣を着ていた時見っともなく見えたよりも、見っともなく見える筈はないよ。」
スクルージは慄然としながらこの対話に耳を傾けていた。例の老爺さんの洋灯から出る乏しい光の下に、銘々の分捕品を取り捲いて、彼等が坐っていた時、彼はたとい、彼等が死骸其者を売買する醜怪な悪鬼どもであったとしても、よもこれより烈しくはあるまいと思われるほどの憎悪と嫌忌の情を以てそれを見やったものだ。
老ジョーが銭の入っているフランネルの嚢を取り出して、床の上に銘々の所得を数え立てた時に、例の女は「はッ、はァ!」と、笑った。「これが事の結末《むすび》でさあね。彼奴が生きていた時分は、誰でも彼でも脅《おど》かして傍《そば》へ寄せ附けなかったものだが、そのお蔭で死んでから私達を儲けさしてくれたよ。はッ、はッ、はァ!」
「精霊殿!」と、スクルージは頭から足の爪先までぶるぶると顫えながら云
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