オます。私の乳母が、藁の切れっぱしを渡してくれると、私はそれを槍のつもりにして、若い頃習った槍の術をして見せます。
 その日の見物人は、十二組あったので、私は十二回も、こんなくだらないまねを繰り返さねばならなかったのです。そう/\、私は疲れて腹が立って、すっかり、へばってしまいました。
 私を見た連中が、これは素晴しいという評判を立てたものですから、見物人はどっと押しかけて、大入満員でした。主人は、私の乳母以外には、誰にも私に指一本さわらせません。そのうえ、危険を防ぐために、テーブルのまわりを、ぐるりとベンチで取り囲んで、誰の手にもとゞかないようにしました。
 それでも、いたずらの小学生が、私の頭をねらって榛の実を投げつけたものです。あたらなかったので助かりましたが、もしあたったら、私の頭は滅茶苦茶にされたでしょう。なにしろ榛の実といっても、南瓜ぐらいの大きさだし、それに猛烈な勢で飛んで来たのです。しかし、このいたずら小僧は、なぐられて部屋から追い出されてしまいました。
 市日がすんで、私たちは家に戻りましたが、主人はこの次の市日にも、またこの見世物をやるという広告を出しました。そして、それまでに、私のためにもっと便利な乗り物を用意してくれました。だが、それはあたりまえのことで、なにぶんこの前の旅行で、私は非常に疲れ、八時間もぶっとおしに見世物にされたので、ヘト/\になってしまいました。私が元気を取り返すには、少くとも三日はかゝりました。
 ところが、私の評判を聞いて、あちこちの紳士たちが、百マイルも先から、今度は主人の家に押しかけて来ました。私は家でも休めなくなりました。毎日々々、私はほとんど身体の休まる暇はなかったのです。
 これはもうかりそうだ、と主人は、今度は私を街から街へつれ歩いて見世物にすることを思いつきました。長い旅行に必要な支度をとゝのえ、家の始末をつけると、細君に別れを告げて、一七〇三年の八月十七日(これは私がこの国へ着いてからちょうど二ヵ月目でした)に出発しました。主人は、この国のほゞ真中にある、首都をめざして行くのでしたが、家からそこまでは、三千マイルの道のりでした。
 主人は娘のグラムダルクリッチを自分の後に乗せました。私は箱に入れられ、その箱は娘の腰に結びつけてありました。彼女は箱の内側を一番やわらかい布地ですっかり張ってくれ、下には厚い敷
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