ニころにある椅子に、私たちは腰をおろしました。
この酋長は、飛島の言葉をよく知っていました。それで私に、旅行の話を少し聞かせてほしい、と言います。そして、彼は、
「うん、召使たちはいない方がいゝな。」
と言いながら、ヒョイと指を動かしました。
すると、今まで、酋長のまわりにいた召使たちが、一ペんに、すーっと消えてしまいました。私はびっくりして、しばらくは口もきけませんでした。
「いや、何でもないのですよ。怖がることはありません。」
と酋長は言ってくれます。
見ると、私の連れの紳士は、たび/\こんなことには馴れているらしく、まるで平気な顔をしていました。それで、私もやっと安心して、旅行の話を手短に話しました。
それでも、私は話しながら、とき/″\どうも気になって、あの召使たちが消えてしまったあたりを振り返って見ていました。
それから私たちは、酋長と一しょに食事をしました。すると、今度はまた別の幽霊どもが、食事を運んで来て、給仕してくれるのでした。それを見ても、私はもう最初ほど、ビク/\しなくなっていました。夕方まで私たちは酋長のところにいました。彼は泊ってゆけとすゝめましたが、私たちは無理に帰りました。私たちは、島の民家に泊り、翌朝になると、また酋長のところへ訪ねて行きました。
こんなふうにして、私たちは十日間、この島にいました。毎日、大がい酋長のところへ行って、夜は、民家の宿へ戻るのです。私は幽霊にも馴れてしまったので、もう三四回目から平気になりました。いや、怖いのはまだ少し怖かったのですが、それよりも、とにかく、これが珍しくてたまらなくなっていたのです。
酋長は私にこんなことを言いだしました。
「私は誰でも死人の中から、あなたの好きな人間を呼び出してあげます。そして、何でも、あなたが聞きたいと思うことを聞けば、死人に返事させます。世界はじまって以来、今日まで、どんな死人でも、呼び出すことができます。」
私は酋長の厚意を大へん有り難く思いました。ちょうど、私たちのいた部屋からは、庭園がすっかり見わたせるようになっていました。
私はまず最初に、何か雄大なものが見たいと思いました。
「それではひとつ、アレキサンダー大王が戦場に立っている姿を見せてください。」
と私は言いました。
酋長は指先をちょっと動かして合図しました。すると、私たちのいる窓の
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