フは、これらの計画が、まだどれも、ほんとに出来上ってはいないことです。だから、それが出来上るまでは、国中が荒れ放題になり、家は破れ、人民は不自由をつゞけます。がそれでも彼等は元気は失わず、希望にもえ、半分やけくそ[#「やけくそ」に傍点]になりながら、五十倍の勇気を振るって、この計画をなしとげようとするのです。
 彼はこんなことを私に説明してくれたのです。そして、
「ぜひ、ひとつあなたにも、その学士院を御案内しましょう。」
 と、つけ加えました。
 それから数日して、私は彼の友人に案内されて、学士院を見物に行きました。
 この学士院は、全体が一つの建物になっているのではなく、往来の両側に建物がずっと並んでいました。
 私が訪ねて行くと、院長は大へん喜んでくれました。私は何日も/\、学士院へ出かけて行きました。どの部屋にも、発明家が一人二人いました。私はおよそ五百ぐらいの部屋を見て歩きました。
 最初に会った男は、手も顔も煤だらけで、髪はぼう/\と伸び、それに、ところ/″\焼け焦げがありました。そして、服もシャツも、皮膚と同じ色なのです。
 彼は、胡瓜《きゅうり》から日光を引き出す計画を、やっているのだそうです。なんでも、もう八年間このことばかり考えているのだそうです。それは、つまり、この胡瓜から引き出した日光を壜詰にしておいて、夏のじめ/\する日に、空気を温めるために使おうというのです。
「もうあと八年もすれば、これはきっと、うまくできるでしょう。」
 と彼は私に言いました。
「しかし困るのは、胡瓜の値段が今非常に高いことです。どうか、ひとつこの発明を助けるために、いくらか寄附していたゞけないでしょうか。」
 と彼は手を差し出しました。私はいくらかお金をやりました。
 次の部屋に入ると、悪臭がむんと鼻をつきました。びっくりして私は跳び出したのですが、案内者が引きとめて、小声でこう言いました。
「どうか先方の気を損ねるようなことをしないでください。ひどく腹を立てますから。」
 それで、私は鼻をつまむわけにもゆかず困ってしまいました。この室の発明家は、顔も鬚も黄色になり、手や着物は汚れた色がついています。彼の研究というのは、人間の排泄したものを、もう一度もとの食物になおすことでした。
 それから、別の部屋に入ると、氷を焼いて火薬にすることを、工夫している男がいました。
 
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