ウい錘《おもり》のついた紐《ひも》が、この島からおろされると、下にいる人民は、それに手紙をくゝりつけます。そして、組はすぐまた吊《つ》り上げられます。ちょうど、子供が凧《たこ》の糸の端に、紙片を結びつけるようなものです。ときには、下から持って来る酒や食料が、滑車でこの島へ引き上げられることもあります。
 この国の人たちは、家の作り方が非常に下手です。壁はゆがみ、どの室も直角になっていないのです。彼等は、定規や鉛筆でする紙の上の仕事は大へんもっともらしいのですが、実地にやらしてみると、この国の人間ぐらい、下手で不器用な人間はいません。彼等は数学と音楽には非常に熱心ですが、そのほかの問題になると、これくらい、ものわかりの悪い、でたらめな人間はありません。理窟を言わせれば、さっぱり筋が通らないし、むやみに反対ばかりします。彼等は頭も心も、数学と音楽しかわからないのです。
 それに、この国の人たちは、いつも何か心配していて、そのために一分間も心は安らかでないのですが、他の人間から見たら、それは何でもないことを心配しているのでした。
 その心配の種というのは、天に何か変ったことが起きはすまいか、ということです。たとえば、地球は絶えず太陽に向って近づいているのだから、今に吸い込まれるか、飲み込まれてしまうだろう、とか、あるいは、太陽の表面にはガスがだん/\固まってきて、今に日が射さなくなるときが来るだろう、とか、この前の彗星のときは、地球は星の尻尾になでられないで助かったが、今度、三十一年後に彗星が現れると、たぶん、われ/\はいよ/\滅ぼされるだろう、というのです。そうかとおもえば、太陽は毎日光線を出しているので、やがては、蝋燭のように溶けてなくなるだろう、そうすると、地球も月も、みんななくなってしまうだろう、などという心配でした。
 彼等は朝から晩まで、こんなふうなことを考えて、ビク/\しています。夜も、よく眠れないし、この世の楽しみを味おうともしないのです。朝、人に会って、第一にする挨拶は、
「太陽の工合はどうでしょう。日の入り、日の出に、変りはございませんか。」
「今度、彗星がやって来たら、どうしたものでしょうか。なんとかして助かりたいものですなあ。」
 と、こんなことを言い合うのです。それはちょうど、子供が幽霊やお化けの話が怖くて眠れないくせに聞きたがるような気持でした
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