烽アれはわけなく承知しました。自分の娘が宮廷に召し出されることは、彼には願ってもない喜びでした。娘の方も、うれしさは包みきれないようでした。そこで旧主人は私に別れを告げ、
「よい御奉公をするのだよ。」
 と言いながら出て行きました。
 私は軽くおじぎしただけで、返事もしてやらなかったのです。王妃は、私のこの冷淡さに気がつかれ、どうしたのか、とお尋ねになりました。そこで、私はありのまゝを申し上げました。
「私はあの主人に畑の中で見つけ出されたのですが、そのとき、頭を打ち砕かれなかったことだけが、まあ有り難かったのです。主人は私を見世物にしたりして、さんざ大もうけしたのですから、私は主人の恩には充分報いているはずです。これまで私の送ってきた生活は、私より十倍強い動物でも、死んでしまいそうな、そんな、ひどいものでした。毎日つゞけざまの骨折りのため、私の身体は非常に弱っていました。主人はもう私が長生きしないと思ったから、陛下に売り払ったのです。
 けれども今では、自然の光、世界の愛人、人民の喜び、天地の不死鳥《フェニックス》であらせられる陛下に保護されましたので、もう私は悪い扱いをされる心配もなくなりました。陛下のお顔を眺めさせていたゞくだけでも、私はもう、ひとりでに元気の湧いてくる気がいたします。」
 私はざっと、こんなふうに王妃に申し上げました。王妃は私の挨拶を聞かれると、とにかく、こんな小さな動物に、こんな智恵と分別があるのを、すっかり驚かれました。そこで、王妃は掌の中に私を入れて、国王陛下の部屋のところへ、つれて行かれました。
 国王陛下は、非常にいかめしく、おも/\しい顔つきの方でしたが、はじめは、私の恰好が、よくおわかりにならなかったらしく、
「いつからスプラクナクなど可愛がってるのだね。」
 と、王妃にお聞きになりました。
 これは私が、王妃の右手の中にうつ伏していたので、国王は、てっきり私をスプラクナク(この国の動物)だと思われたのでしょう。
 ところが、王妃は非常に気のきいた、面白いことの好きな方でした。私をそっと書きもの机の上に置くと、ひとつ国王に身の上話をしてあげなさい、と仰せられるのです。私はごく簡単に話しました。そのとき、戸口までついて来て、私から目を離さなかったグラムダルクリッチが部屋の中に入って来ました。彼女は、私が彼女の父の家に来てから以来の
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