は、評判の心掛善き御方にて、殊《こと》に私をば娘のやうに思ひ、日頃《ひごろ》の厚き情《なさけ》は海山にも喩《たと》へ難きほどに候へば、なかなか辞《ことば》を返し候段にては無之《これなく》、心弱しとは思ひながら、涙の零《こぼ》れ候ばかりにて、無拠《よんどころなく》身《み》の不束《ふつつか》をも詑《わ》び申候《まをしさふらふ》次第に御座候。
此命《このいのち》御前様《おんまへさま》に捨て候ものに無御座候《ござなくさふら》はば、外には此人の為に捨て可申《まをすべく》と存候《ぞんじさふらふ》。此の御方を母とし、御前様《おんまへさま》を夫と致候て暮し候事も相|叶《かな》ひ候はば、私は土間に寐《い》ね、蓆《むしろ》を絡《まと》ひ候《さふらふ》ても、其楽《そのたのしみ》は然《さ》ぞやと、常に及ばぬ事を恋《こひし》く思居りまゐらせ候。私事相果て候はば、他人にて真《まこと》に悲みくれ候は、此世に此の御方一人《おんかたひとり》に御座あるべく、第一|然《さ》やうの人を欺き、然やうの情《なさけ》を余所《よそ》に致候《いたしさふらふ》私は、如何《いか》なる罰を受け候事かと、悲く悲く存候に、はや浅ましき死様《し
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