なら、何か私共の致しました事がお気に障《さは》りましたので御座いませう。かう云ふ何《なんに》も存じません粗才者《ぞんざいもの》の事で御座いますから」
「いいや、……」
「いいえ、私は始終言はれてをります狭山に済みませんですから、どうぞ行届きませんところは」
「いいや、さう云ふ意味で言つたのではない。今のは私の愚痴だから、さう気に懸けてくれては甚《はなは》だ困る」
「ついにそんな事を有仰《おつしや》つた事の無い貴方が、今日に限つて今のやうに有仰ると、日頃私共に御不足がお有《あん》なすつて」
「いや、悪かつた、私が悪かつた。なかなか不足どころか、お前さん方が陰陽無《かげひなたな》く実に善く気を着けて、親身のやうに世話してくれるのを、私は何より嬉く思つてゐる。往日《いつか》話した通り、私は身寄も友達も無いと謂つて可いくらゐの独法師《ひとりぼつち》の体だから、気分が悪くても、誰《たれ》一人薬を飲めと言つてくれる者は無し、何かに就けてそれは心細いのだ。さう云ふ私に、鬱《ふさ》いでゐるから酒でも飲めと、無理にも勧めてくれるその深切は、枯木に花が咲くやうな心持が、いえ、嘘《うそ》でも何でも無い。さあ
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