に有《も》てる忙《せは》しさは、盆と正月との併《あは》せ来にけんやうなるべきをも、彼はなほ未《いま》だ覚めやらぬ夢の中《うち》にて、その夢心地には、如何《いか》なる事も難《かた》しと為るに足らずと思へるならん。寔《まこと》に彼はさも思へらんやうに勇《いさ》み、喜び、誇り、楽める色あり。彼の面《おもて》は為に謂《い》ふばかり無く輝ける程に、常にも愈《ま》して妖艶《あでやか》に見えぬ。
暫《しば》し浴後《ゆあがり》を涼みゐる貫一の側に、お静は習々《そよそよ》と団扇《うちは》の風を送りゐたりしが、縁柱《えんばしら》に靠《もた》れて、物をも言はず労《つか》れたる彼の気色を左瞻右視《とみかうみ》て、
「貴方《あなた》、大変にお顔色《かほつき》がお悪いぢや御座いませんか」
貫一はこの言《ことば》に力をも得たらんやうに、萎《な》え頽《くづ》れたる身を始て揺《ゆす》りつ。
「さうかね」
「あら、さうかねぢや御座いませんよ、どうあそばしたのです」
「別にどうも為はせんけれど、何だかかう気が閉ぢて、惺然《はつきり》せんねえ」
「惺然《はつきり》あそばせよ。麦酒《ビイル》でも召上りませんか、ねえ、さうな
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