ろ》ぐとともに、この文殻《ふみがら》の埓無《らちな》き様を見て、やや慌《あわ》てたりげに左肩《ひだりがた》より垂れたるを取りて二つに引裂きつ。さてその一片《ひとひら》を手繰《たぐ》らんと為るに、長きこと帯の如し。好き程に裂きては累《かさ》ね、累ぬれば、皆積みて一冊にも成りぬべし。
 かかる間《ま》も彼は自《おのづ》と思に沈みて、その動す手も怠《たゆ》く、裂きては一々読むかとも目を凝《こら》しつつ。やや有りて裂了《さきをは》りし後は、あだかも劇《はげし》き力作に労《つか》れたらんやうに、弱々《よわよわ》と身を支へて、長き頂《うなじ》を垂れたり。
 されど久《ひさし》きに勝《た》へずやありけん、卒《にはか》に起たんとして、かの文殻の委《お》きたるを取上げ、庭の日陰に歩出《あゆみい》でて、一歩に一《ひと》たび裂き、二歩に二たび裂き、木間に入りては裂き、花壇を繞《めぐ》りては裂き、留りては裂き、行きては裂き、裂きて裂きて寸々《すんずん》に作《な》しけるを、又|引捩《ひきねぢ》りては歩み、歩みては引捩りしが、はや行くも苦《くるし》く、後様《うしろさま》に唯有《とあ》る冬青《もち》の樹に寄添へり。
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