》く其処《そこ》を考へて見てくれ。
 私もかうして頼むからは、お前の方の頼も聴かう。今年卒業したら直《すぐ》に洋行でもしたいと思ふなら、又さう云ふ事に私も一番《ひとつ》奮発しやうではないか。明日にも宮と一処になつて、私たちを安心さしてくれるよりは、お前も私もも少《すこ》しのところを辛抱して、いつその事|博士《はかせ》になつて喜ばしてくれんか」
 彼はさも思ひのままに説完《ときおほ》せたる面色《おももち》して、寛《ゆたか》に髯《ひげ》を撫《な》でてゐたり。
 貫一は彼の説進むに従ひて、漸《やうや》くその心事の火を覩《み》るより明《あきらか》なるを得たり。彼が千言万語の舌を弄《ろう》して倦《う》まざるは、畢竟《ひつきよう》利の一字を掩《おほ》はんが為のみ。貧する者の盗むは世の習ながら、貧せざるもなほ盗まんとするか。我も穢《けが》れたるこの世に生れたれば、穢れたりとは自ら知らで、或《あるひ》は穢れたる念を起し、或は穢れたる行《おこなひ》を為《な》すことあらむ。されど自ら穢れたりと知りて自ら穢すべきや。妻を売りて博士を買ふ! これ豈《あに》穢れたるの最も大なる者ならずや。
 世は穢れ、人は穢れ
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