く」
狭山は直《ぢき》に枕の下なる袱紗包《ふくさづつみ》の紙入《かみいれ》を取上げて、内より出《いだ》せる一包《いつぽう》の粉剤こそ、正《まさ》に両個《ふたり》が絶命の刃《やいば》に易《か》ふる者なりけれ。
女は二つの茶碗《ちやわん》を置並ぶれば、玉の如き真白の粉末は封を披《ひら》きて、男の手よりその内に頒《わか》たれぬ。
「さあ、その酒を取つてくれ。お前のには俺が酌をするから、俺のにはお前が」
「ああ可うござんす」
雨はこの時漸く霽《は》れて、軒の玉水|絶々《たえだえ》に、怪禽《かいきん》鳴過《なきすぐ》る者両|三声《さんせい》にして、跡松風の音|颯々《さつさつ》たり。
狭山はやがて銚子《ちようし》を取りて、一箇《ひとつ》の茶碗に酒を澆《そそ》げば、お静は目を閉ぢ、合掌して、聞えぬほどの忍音《しのびね》に、
「南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》、南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》」
代りて酌する彼の想は、吾手《わがて》男の胸元《むなもと》に刺違《さしちが》ふる鋩《きつさき》を押当つるにも似たる苦しさに、自《おのづ》から洩出《もれい》づる声も打震ひて、
「南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ
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