縁ぢやなし、私だつてこれでも随分|謂《い》ふに謂《いは》れない苦労を為てゐるんぢやありませんか。それを貴方がさもさも迷惑さうに、何ぞの端《はし》には悪縁だ悪縁だとお言ひなさるけれど、聞《きか》される身に成つて御覧なさいな。余《あんま》り好《い》い心持は為やしません。それも不断ならともかくもですさ、この場になつてまでも、さう云ふ事を言ふのは、貴方の心が水臭いからだ――何がさうでない事が有るもんですか」
「悪縁だから悪縁だと言ふのぢやないか。何も迷惑して……」
「悪縁でも可ござんすよ!」
 彼等は相背《あひそむ》きて姑《しばら》く語無《ことばな》かりしが、女は忍びやかに泣きゐたり。
「おい、お静、おい」
「貴方きつと迷惑なんでせう。貴方がそんな気ぢや、私は……実に……つまらない。私はどうせう。情無い!」
 お静は竟《つひ》に顔を掩《おほ》うて泣きぬ。
「何だな、お前も考へて見るが可いぢやないか。それを迷惑とも何とも思はないからこそ、世間を狭くするやうな間《なか》にも成りさ、又かう云ふ……なあ……訳なのぢやないか。それを嘘《うそ》にも水臭いなんて言《いは》れりや、俺だつて悔《くやし》いだらう
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