て自ら率《ひきゐ》るその己を識る能はず。貫一は抑へて怪まざらんと為《せ》ば、理に於て怪まずしてあるべきを信ずるものから、又幻視せるが如きその大いなる影の冥想《めいそう》の間に纏綿《てんめん》して、或《あるひ》は理外に在る者有る無からんや、と疑はざらんと為る傍《かたはら》より却《かへ》りて惑《まどは》しむるなり。
 表階子《おもてばしご》の口に懸《かか》れる大時計は、病み憊《つか》れたるやうの鈍き響を作《な》して、廊下の闇《やみ》に彷徨《さまよ》ふを、数ふれば正《まさ》に十一時なり。
 かの客はこの深更《しんこう》に及べども未《いま》だ帰り来《こ》ず。
 彼は帰り来らざるなるか、帰り得ざるなるか、帰らざるなるかなど、又|思放《おもひはな》つ能はずして、貫一は寝苦《ねぐるし》き枕を頻回《あまたたび》易《か》へたり。今や十二時にも成りなんにと心に懸けながら、その音は聞くに及ばずして遂《つひ》に眠《ねむり》を催せり。日高《ひだか》き朝景色の前に起出づれば、座敷の外を小婢《こをんな》は雑巾掛《ぞうきんがけ》してゐたり。
「お早う御座りやす」
「睡《ねむ》さうな顔をしてゐるな」
「はい、昨夜《よん
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