、到頭お着が無いもんで御座いますから、今朝《けさ》から御心配|遊《あそば》して、停車場《ステエション》まで様子を見がてら電報を掛けに行くと有仰《おつしや》いまして、それでお出ましに成つたので御座います」
「うむ、それは心配だらう。能く有る事だ。然し、飯も食はずに気を揉《も》んでゐるとは、どう云ふ伴《つれ》なのかな。――年寄《としより》か、婦《をんな》ででもあるか」
「如何《いかが》で御座いますか」
「お前知らんのか」
「私《わたくし》存じません」
 彼は覚えず小首を傾《かたむ》くれば、
「旦那《だんな》も大相御心配ぢや御座いませんか」
「さう云ふ事を聞くと、俺《おれ》も気になるのだ」
「ぢや旦那も余程《よつぽど》苦労性の方ですね」
「大きにさうだ」
「それぢやお連様がいらしつて見て、お年寄か、お友達なら宜《よろし》う御座いますけれど、もしも、ねえ、貴方《あなた》、お美《うつくし》い方か何かだつた日には、それこそ旦那は大変で御座いますね」
「どう大変なのか」
「又御心配ぢや御座いませんか」
「うむ、大きにこれはさうだ」
 風恬《かぜしづか》に草|香《かを》りて、唯居るは惜き日和《ひより》
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