、客は改まれど、貫一は易《かは》らざる他《そ》の悒鬱《ゆううつ》を抱《いだ》きて、遣《や》る方無き五時間の独《ひとり》に倦《う》み憊《つか》れつつ、始て西那須野《にしなすの》の駅に下車せり。
直《ただ》ちに西北に向ひて、今尚《いまなほ》茫々《ぼうぼう》たる古《いにしへ》の那須野原《なすのがはら》に入《い》れば、天は濶《ひろ》く、地は遐《はるか》に、唯平蕪《ただへいぶ》の迷ひ、断雲の飛ぶのみにして、三里の坦途《たんと》、一帯の重巒《ちようらん》、塩原は其処《そこ》ぞと見えて、行くほどに跡《みち》は窮《きはま》らず、漸《やうや》く千本松を過ぎ、進みて関谷村《せきやむら》に到れば、人家の尽る処に淙々《そうそう》の響有りて、これに架《かか》れるを入勝橋《にゆうしようきよう》と為《な》す。
輙《すなは》ち橋を渡りて僅《わづか》に行けば、日光|冥《くら》く、山厚く畳み、嵐気《らんき》冷《ひややか》に壑深《たにふか》く陥りて、幾廻《いくめぐり》せる葛折《つづらをり》の、後には密樹《みつじゆ》に声々《せいせい》の鳥呼び、前には幽草《ゆうそう》歩々《ほほ》の花を発《ひら》き、いよいよ躋《のぼ》れば、
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