《とど》めんの一念より他《た》あらぬ貫一なれば、かくと見るより心も空に、足は地を踏む遑《いとま》もあらず、唯遅れじと思ふばかりよ、壑間《たにま》の嵐《あらし》の誘ふに委《まか》せて、驀直《ましぐら》に身を堕《おと》せり。
 或《あるひ》は摧《くだ》けて死ぬべかりしを、恙無《つつがな》きこそ天の佑《たすけ》と、彼は数歩の内に宮を追ひしが、流に浸《ひた》れる巌《いはほ》を渉《わた》りて、既に渦巻く滝津瀬《たきつせ》に生憎《あやにく》! 花は散りかかるを、
「宮!」
 と後《うしろ》に呼ぶ声残りて、前には人の影も在らず。
 咄嗟《とつさ》の遅《おくれ》を天に叫び、地に号《わめ》き、流に悶《もだ》え、巌に狂へる貫一は、血走る眼《まなこ》に水を射て、此処《ここ》や彼処《かしこ》と恋《こひし》き水屑《みくづ》を覓《もと》むれば、正《まさし》く浮木芥《うきぎあくた》の類とも見えざる物の、十間《じつけん》ばかり彼方《あなた》を揉みに揉んで、波間隠《なみまがくれ》に推流《おしなが》さるるは、人ならず哉《や》、宮なるかと瞳《ひとみ》を定むる折しもあれ、水勢|其処《そこ》に一段急なり、在りける影は弦《つる》
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