ぜん》として一涌《いちゆう》の鮮紅《せんこう》を嘔出《はきいだ》せり。心晦《こころくら》みて覚えず倒れんとする耳元に、松風《まつかぜ》驀然《どつ》と吹起りて、吾に復《かへ》れば、眼前の御壕端《おほりばた》。只|看《み》る、宮は行き行きて生茂《おひしげ》る柳の暗きに分入りたる、入水《じゆすい》の覚悟に極《きはま》れりと、貫一は必死の声を搾《しぼ》りて連《しきり》に呼べば、咳入《せきい》り咳入り数口《すうこう》の咯血《かつけつ》、斑爛《はんらん》として地に委《お》ちたり。何思ひけん、宮は千条《ちすぢ》の緑の陰より、その色よりは稍《やや》白き面《おもて》を露《あらは》して、追来る人を熟《じ》と見たりしが、竟《つひ》に疲れて起きも得ざる貫一の、唯手を抗《あ》げて遙《はるか》に留《と》むるを、免《ゆる》し給へと伏拝《ふしをが》みて、つと茂の中《うち》に隠れたり。
 彼は己《おのれ》の死ぬべきを忘れて又起てり。駈寄《かけよ》る岸の柳を潜《くぐ》りて、水は深きか、宮は何処《いづこ》に、と葎《むぐら》の露に踏滑《ふみすべ》る身を危《あやふ》くも淵《ふち》に臨めば、※[#「※」は「革+堂」、394−9]
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