には、貫一さん、私は決してあんな不心得は為ませんから、貴方も私の事を忘れずにゐて下さい。可《よ》うござんすか! きつと忘れずにゐて下さいよ。
人は最期《さいご》の一念で生《しよう》を引くと云ふから、私はこの事ばかり思窮《おもひつ》めて死にます。貫一さん、この通だから堪忍して!」
声震はせて縋《すが》ると見れば、宮は男の膝《ひざ》の上なる鋩《きつさき》目掛けて岸破《がば》と伏したり。
「や、行《や》つたな!」
貫一が胸は劈《つんざ》けて始てこの声を出《いだ》せるなり。
「貫一さん!」
無残やな、振仰ぐ宮が喉《のんど》は血に塗《まみ》れて、刃《やいば》の半《なかば》を貫けるなり。彼はその手を放たで苦き眼《まなこ》を※[#「※」は「目+爭」、391−3]《みひら》きつつ、男の顔を視《み》んと為るを、貫一は気も漫《そぞろ》に引抱《ひつかか》へて、
「これ宮、貴様は、まあこれは何事だ!」
大事の刃を抜取らんと為れど、一念|凝《こ》りて些《ちと》も弛《ゆる》めぬ女の力。
「これを放せ、よ、これを放さんか。さあ、放せと言ふに、ええ、何為《なぜ》放さんのだ」
「貫、貫一さん」
「おお、何だ」
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