…」
「いいえ、貴方が見せて下さる思召ならば……」
驚破《すはや》、障子を推開《おしひら》きて、貫一は露けき庭に躍《をど》り下りぬ。つとその迹《あと》に顕《あらは》れたる満枝の面《おもて》は、斜《ななめ》に葉越《はごし》の月の冷《つめた》き影を帯びながらなほ火の如く燃えに燃えたり。
第 八 章
家の内には己《おのれ》と老婢《ろうひ》との外《ほか》に、今客も在らざるに、女の泣く声、詬《ののし》る声の聞ゆるは甚《はなは》だ謂無《いはれな》し、我《われ》或《あるひ》は夢むるにあらずやと疑ひつつ、貫一は枕《まくら》せる頭《かしら》を擡《もた》げて耳を澄せり。
その声は急に噪《さわがし》く、相争《あひあらそ》ふ気勢《けはひ》さへして、はたはたと紙門《ふすま》を犇《ひしめ》かすは、愈《いよい》よ怪《あや》しと夜着《よぎ》排却《はねの》けて起ち行かんとする時、ばつさり紙門の倒るると斉《ひとし》く、二人の女の姿は貫一が目前《めさき》に転《まろ》び出《い》でぬ。
苛《さいな》まれしと見ゆる方《かた》の髪は浮藻《うきも》の如く乱れて、着たるコートは雫《しづく》するばかり雨に濡《ぬ》れ
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