》つてで御座いますものですから、さう申上げに参つたので御座いますが、それぢやまあ、那辺《どちら》へいらつしやいましたらう!」
「那裡《あちら》にもゐらつしやいませんの!」
「さやうなので御座いますよ」
 老婢はここを倉皇《とつかは》起ちて、満枝が前に、
「此方《こちら》へもいらつしやいませんで御座いますか」
「何が」
「あの、那裡《あちら》にもゐらつしやいませんので御座いますが」
「旦那様が? どうして」
「今し方|這裡《こちら》へ出てお在《いで》になつたのださうで御座います」
「嘘《うそ》、嘘ですよ」
「いいえ、那裡《あちら》にはお客様がお一人でゐらつしやるばかり……」
「嘘ですよ」
「いいえ、どういたして貴方、決して嘘ぢや御座いません」
「だつて、此方《こちら》へお出《いで》なさりは為ないぢやありませんか」
「ですから、まあ、何方《どつち》へいらつしやつたのかと思ひまして……」
「那裡《あちら》にきつと隠れてでもお在《いで》なのですよ」
「貴方、そんな事が御座いますものですか」
「どうだか知れはしません」
「はてね、まあ。お手水《てうづ》ですかしらん」
 随処《そこら》尋ねんとて彼
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