か、出《で》養生より内《うち》養生の方が楽だ。何か旨《うま》い物でも食べやうぢやないか、二人で、なう」
 貫一は着更《きか》へんとて書斎に還りぬ。宮の遺《のこ》したる筆の蹟《あと》などあらんかと思ひて、求めけれども見えず。彼の居間をも尋ねけれど在らず。急ぎ出でしなればさもあるべし、明日は必ず便《たより》あらんと思飜《おもひかへ》せしが、さすがに心楽まざりき。彼の六時間学校に在りて帰来《かへりきた》れるは、心の痩《や》するばかり美き俤《おもかげ》に饑《う》ゑて帰来れるなり。彼は空《むなし》く饑ゑたる心を抱《いだ》きて慰むべくもあらぬ机に向へり。
「実に水臭いな。幾許《いくら》急いで出掛けたつて、何とか一言《ひとこと》ぐらゐ言遺《いひお》いて行《い》きさうなものぢやないか。一寸《ちよつと》其処《そこ》へ行つたのぢやなし、四五日でも旅だ。第一言遺く、言遺かないよりは、湯治に行くなら行くと、始《はじめ》に話が有りさうなものだ。急に思着いた? 急に思着いたつて、急に行かなければならん所ぢやあるまい。俺の帰るのを待つて、話をして、明日《あした》行くと云ふのが順序だらう。四五日ぐらゐの離別《わかれ》
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