に呻《うめ》きしを、老婢《ろうひ》に喚《よば》れて、覚めたりと知りつつ現《うつつ》ならず又睡りけるを、再び彼に揺起《ゆりおこさ》れて驚けば、
「お客様でございます」
「お客? 誰だ」
「荒尾さんと有仰《おつしや》いました」
「何、荒尾? ああ、さうか」
主《あるじ》の急ぎ起きんとすれば、
「お通し申しますで御座いますか」
「おお、早くお通し申して。さうしてな、唯今起きましたところで御座いますから、暫《しばら》く失礼致しますとさう申して」
貫一はかの一別の後|三度《みたび》まで彼の隠家《かくれが》を訪ひしかど、毎《つね》に不在に会ひて、二度に及べる消息の返書さへあらざりければ、安否の如何《いかが》を満枝に糺《ただ》せしに、変る事無く其処《そこ》に住めりと言ふに、さては真《まこと》に交《まじはり》を絶たんとすならんを、姑《しばら》く強《しひ》て追はじと、一月|余《あまり》も打絶えたりしに、彼方《あなた》より好《よ》くこそ来つれ、吾がこの苦《くるしみ》を語るべきは唯彼在るのみなるを、朋《とも》の来《きた》れるも、実《げ》にかくばかり楽きはあらざらん。今日は酒を出《いだ》して一日《いちじつ
前へ
次へ
全708ページ中507ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング