か》さんに私は済まない。
 親が不承知なのを私が自分の了簡通《りようけんどほり》に為るのは、そりや不孝かも知れませんけれど、私はどうしても雅さんのところへ適《ゆ》きたいのですから、お可厭《いや》でなくば引取つて下さいましな。私の事はかまひませんから雅さんが貰つて下さるお心持がお有《あん》なさるのか、どうだか唯それを聞して下さいな」
 貫一は身を回《めぐら》して臂枕《ひざまくら》に打仰《うちあふ》ぎぬ。彼は己《おのれ》が与へし男の不幸よりも、添《そは》れぬ女の悲《かなしみ》よりも、先《ま》づその娘が意気の壮《さかん》なるに感じて、あはれ、世にはかかる切なる恋の焚《もゆ》る如き誠もあるよ、と頭《かしら》は熱《ねつ》し胸は轟《とどろ》くなり。
 さて男の声は聞ゆ。
「それは、鈴《すう》さん、言ふまでもありはしない。私もこんな目にさへ遭《あ》はなかつたら、今頃は家内三人で睦《むつまし》く、笑つて暮してゐられるものを、と思へば猶の事、私は今日の別が何とも謂《いは》れないほど情無い。かうして今では人に顔向《かほむけ》も出来ないやうな身に成つてゐる者をそんなに言つてくれるのは、この世の中に鈴さん一人
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