の中を覚《さと》られじと思へば、弱る力を励して、
「可羨《うらやまし》いわ」

「可羨ければ、お前さんの事だから分けてあげやう」
「何卒《どうぞ》」
「ええ悉皆《みんな》遣《や》つて了《しま》へ!」
 彼は外套《オバコオト》の衣兜《かくし》より一袋のボンボンを取出《とりいだ》して火燵《こたつ》の上に置けば、余力《はずみ》に袋の口は弛《ゆる》みて、紅白の玉は珊々《さらさら》と乱出《みだれい》でぬ。こは宮の最も好める菓子なり。

     第 六 章

 その翌々日なりき、宮は貫一に勧められて行きて医の診察を受けしに、胃病なりとて一瓶《いちびん》の水薬《すいやく》を与へられぬ。貫一は信《まこと》に胃病なるべしと思へり。患者は必ずさる事あらじと思ひつつもその薬を服したり。懊悩《おうのう》として憂《うき》に堪《た》へざらんやうなる彼の容体《ようたい》に幾許《いくばく》の変も見えざりけれど、その心に水と火の如きものありて相剋《あひこく》する苦痛は、益《ますます》募りて止《やま》ざるなり。
 貫一は彼の憎からぬ人ならずや。怪《あやし》むべし、彼はこの日頃さしも憎からぬ人を見ることを懼《おそ》れぬ。
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