だけれど、衆《みんな》が皆《みんな》そんな了簡《りようけん》を起して御覧な、世界中御寺ばかりになつて了《しま》ふ。儚《はかな》いのが世の中と覚悟した上で、その儚い、つまらない中で切《せめ》ては楽《たのしみ》を求めやうとして、究竟《つまり》我々が働いてゐるのだ。考へて鬱《ふさ》いだところで、つまらない世の中に儚い人間と生れて来た以上は、どうも今更為方が無いぢやないか。だから、つまらない世の中を幾分《いくら》か面白く暮さうと考へるより外は無いのさ。面白く暮すには、何か楽《たのしみ》が無ければならない。一事《ひとつ》かうと云ふ楽があつたら決して世の中はつまらんものではないよ。宮《みい》さんはそれでは楽と云ふものが無いのだね。この楽があればこそ生きてゐると思ふ程の楽は無いのだね」
 宮は美き目を挙げて、求むるところあるが如く偸《ひそか》に男の顔を見たり。
「きつと無いのだね」
 彼は笑《ゑみ》を含みぬ。されども苦しげに見えたり。
「無い?」
 宮の肩頭《かたさき》を捉《と》りて貫一は此方《こなた》に引向けんとすれば、為《な》すままに彼は緩《ゆる》く身を廻《めぐら》したれど、顔のみは可羞《はぢが
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