たる胸の内の訴へん方《かた》もあらぬ切なさに、唯心寛《ただこころゆかし》の仮初《かりそめ》に援《と》りける筆ながら、なかなか口には打出《うちいだ》し難き事を最好《いとよ》く書きて陳《つづ》けも為《せ》しを、あはれかのひとの許《もと》に送りて、思ひ知りたる今の悲しさを告げばやと、一図の意《こころ》をも定めしが、又案ずれば、その文は果して貫一の手に触れ、目にも入るべきか。よしさればとて、憎み怨《うら》める怒《いかり》の余に投返されて、人目に曝《さら》さるる事などあらば、徒《いたづら》に身を滅《ほろぼ》す疵《きず》を求めて終りなんをと、遣れば火に入る虫の危《あやふ》く、捨つるは惜くも、やがて好き首尾の有らんやうに拠無《よりどころな》き頼を繋《か》けつつ、彼は懊悩《おうのう》に堪へざる毎に取出でては写し易《か》ふる傍《かたは》ら、或《ある》は書添へ、或は改めなどして、この文に向へば自《おのづか》らその人に向ふが如く、その人に向ひてはほとほと言尽《いひつく》して心残《こころのこり》のあらざる如く、止《ただ》これに因《よ》りて欲するままの夢をも結ぶに似たる快きを覚ゆるなりき。かくして得送らぬ文は写
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