る日脚《ひざし》は、袋棚《ふくろだな》に据ゑたる福寿草《ふくじゆそう》の五六輪|咲揃《さきそろ》へる葩《はなびら》に輝きつつ、更に唯継の身よりは光も出づらんやうに、彼は昼眩《ひるまばゆ》き新調の三枚襲《さんまいがさね》を着飾りてその最も珍《ちん》と為る里昂《リヨン》製の白の透織《すかしおり》の絹領巻《きぬえりまき》を右手《めて》に引※[#「※」は「てへん+區」、306−10]《ひきつくろ》ひ、左に宮の酌を受けながら、
「あ、拙《まづ》い手付《てつき》……ああ零《こぼ》れる、零れる! これは恐入つた。これだからつい余所《よそ》で飲む気にもなりますと謂《い》つて可い位のものだ」
「ですから多度上《たんとあが》つていらつしやいまし」
「宜《よろし》いかい。宜いね。宜い。今夜は遅いよ」
「何時頃お帰来《かへり》になります」
「遅いよ」
「でも大約《おほよそ》時間を極めて置いて下さいませんと、お待ち申してをる者は困ります」
「遅いよ」
「それぢや十時には皆《みんな》寝みますから」
「遅いよ」
又言ふも煩《わづらはし》くて宮は口を閉ぢぬ。
「遅いよ」
「…………」
「驚くほど遅いよ」
「…………
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