ひ》を享《う》くる心の内に、独《ひと》り遣方無《やるかたな》く苦める不幸は又量無しと為ざらんや。
 十九にして恋人を棄てにし宮は、昨日《きのふ》を夢み、今日を嘆《かこ》ちつつ、過《すぐ》せば過さるる月日を累《かさ》ねて、ここに二十《はたち》あまり五《いつつ》の春を迎へぬ。この春の齎《もたら》せしものは痛悔と失望と憂悶《ゆうもん》と、別に空《むなし》くその身を老《おい》しむる齢《よはひ》なるのみ。彼は釈《ゆるさ》れざる囚《とらはれ》にも同《おなじ》かる思を悩みて、元日の明《あく》るよりいとど懊悩《おうのう》の遣る方無かりけるも、年の始といふに臥《ふ》すべき病《やまひ》ならねば、起きゐるままに本意ならぬ粧《よそほひ》も、色を好める夫に勧められて、例の美しと見らるる浅ましさより、猶《なほ》甚《はなはだし》き浅ましさをその人の陰《かげ》に陽《ひなた》に恨み悲むめり。
 宮は今外出せんとする夫の寒凌《さむさしの》ぎに葡萄酒《ぶどうしゆ》飲む間《ま》を暫《しばら》く長火鉢《ながひばち》の前に冊《かしづ》くなり。木振賤《きぶりいやし》からぬ二鉢《ふたはち》の梅の影を帯びて南縁の障子に上《のぼ》り尽せ
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