いと》ひ憎めるにあらずや。その故に彼は漸く家庭の楽からざるをも感ずるにあらずや。その故に彼は外に出でて憂《うさ》を霽《はら》すに忙《いそがはし》きにあらずや。されども彼の忘れず塒《ねぐら》に帰り来《きた》るは、又この妻の美き顔を見んが為のみ。既にその顔を見了《みをは》れば、何ばかりの楽《たのしみ》のあらぬ家庭は、彼をして火無き煖炉《ストオブ》の傍《かたはら》に処《をら》しむるなり。彼の凍えて出《い》でざること無し。出《い》づれば幸ひにその金力に頼《よ》りて勢を得、媚《こび》を買ひて、一時の慾を肆《ほしいま》まにし、其処《そこ》には楽むとも知らず楽み、苦むとも知らず苦みつつ宮が空《むなし》き色香《いろか》に溺《おぼ》れて、内にはかかる美きものを手活《ていけ》の花と眺《なが》め、外には到るところに当世の※[#「※」は「鬲+(栩−木)」、305−6]《はぶし》を鳴して推廻《おしまは》すが、此上無《こよな》う紳士の願足れりと心得たるなり。
 いで、その妻は見るも厭《いとはし》き夫の傍《そば》に在る苦を片時も軽くせんとて、彼の繁《しげ》き外出《そとで》を見赦《みゆる》して、十度《とたび》に一度《
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