らん。
して見りや、始には富山が為に間を欺き、今又間の為に貴方《あなた》は富山を欺くんじや。一人ならず二人欺くんじや! 一方には悔悟して、それが為に又一方に罪を犯したら、折角の悔悟の効は没《なくな》つて了ふ」
「そんな事はかまひません!」
無慙《むざん》に唇《くちびる》を咬《か》みて、宮は抑へ難くも激せるなり。
「かまはんぢや可かん」
「いいえ、かまひません!」
「そりや可かん!」
「私《わたくし》はもうそんな事はかまひませんのです。私の体はどんなになりませうとも、疾《とう》から棄ててをるので御座いますから、唯もう一度貫一さんにお目に掛つて、この気の済むほど謝りさへ致したら、その場でもつて私は死にましても本望なのですから、富山の事などは……不如《いつそ》さうして死んで了ひたいので御座います」
「それそれさう云ふ無考《むかんがへ》な、訳の解らん人に僕は与《くみ》することは出来んと謂ふんじや。一体さうした貴方は了簡《りようけん》ぢやからして、始に間をも棄てたんじや。不埓《ふらち》です! 人の妻たる身で夫を欺いて、それでかまはんとは何事ですか。そんな貴方が了簡であつて見りや、僕は寧《むし
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