《ただ》一毛に値する一秒の壱銭|乃至《ないし》拾銭にも暴騰せる貴々重々《ききちようちよう》の時は、速射砲を連発《つるべうち》にするが如く飛過《とびすぐ》るにぞ、彼等の恐慌は更に意言《こころことば》も及ばざるなる。
その平生《へいぜい》に怠無《おこたりな》かりし天は、又今日に何の変易《へんえき》もあらず、悠々《ゆうゆう》として蒼《あを》く、昭々として闊《ひろ》く、浩々《こうこう》として静に、しかも確然としてその覆《おほ》ふべきを覆ひ、終日《ひねもす》北の風を下《おろ》し、夕付《ゆふづ》く日の影を耀《かがやか》して、師走《しはす》の塵《ちり》の表《おもて》に高く澄めり。見遍《みわた》せば両行の門飾《かどかざり》は一様に枝葉の末広く寿山《じゆざん》の翠《みどり》を交《かは》し、十町《じつちよう》の軒端《のきば》に続く注連繩《しめなは》は、福海《ふくかい》の霞《かすみ》揺曳《ようえい》して、繁華を添ふる春待つ景色は、転《うた》た旧《ふ》り行く歳《とし》の魂《こん》を驚《おどろ》かす。
かの人々の弐千余円を失ひて馳違《はせちが》ふ中を、梅提げて通るは誰《た》が子、猟銃|担《かた》げ行くは誰が
前へ
次へ
全708ページ中419ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング