てこれを換算せば、一秒を一毛に見積りて、壱人前《いちにんまへ》の睡量《ねぶりだか》凡《およ》そ八時間を除きたる一日の正味十六時間は、実に金五円七拾六銭に相当す。これを三百六十五日の一年に合計すれば、金弐千壱百〇弐円四拾銭の巨額に上るにあらずや。さればここに二十七日と推薄《おしつま》りたる歳末の市中は物情|恟々《きようきよう》として、世界絶滅の期の終《つひ》に宣告せられたらんもかくやとばかりに、坐りし人は出でて歩み、歩みし人は走りて過ぎ、走りし人は足も空に、合ふさ離《き》るさの気立《けたたまし》く、肩相摩《けんあひま》しては傷《きずつ》き、轂相撃《こくあひう》ちては砕けぬべきをも覚えざるは、心々《こころごころ》に今を限《かぎり》と慌《あわ》て騒ぐ事ありて、不狂人も狂せるなり。彼等は皆過去の十一箇月を虚《あだ》に送りて、一秒の塵《ちり》の積める弐千余円の大金を何処《いづく》にか振落し、後悔の尾《しり》に立ちて今更に血眼《ちまなこ》を※[#「※」は「目+登」、286−15]《みひら》き、草を分け、瓦を揆《おこ》しても、その行方《ゆくへ》を尋ねんと為るにあらざるなし。かかる間《ひま》にも常は止
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