もひわづら》へる貫一は艱《むづか》しげなる顔を稍《やや》内向けたるに、今はなかなか悪怯《わるび》れもせで満枝は椅子の前なる手炉《てあぶり》に寄りぬ。
「然しお宅の御都合もあるぢやらうし、又お忙《せはし》いところを度々お見舞下されては痛入《いたみい》ります。それにこれの病気も最早|快《よ》うなるばかりじやで御心配には及ばんで、以来お出《い》で下さるのは何分お断り申しまする」
言黒《いひくろ》めたる邪魔立を満枝は面憎《つらにく》がりて、
「いいえ、もうどう致しまして、この御近辺まで毎々|次手《ついで》がありますのでございますから、その御心配には及びません」
直行の眼《まなこ》は再び輝けり。貫一は憖《なまじひ》に彼を窘《くるし》めじと、傍《かたはら》より言《ことば》を添へぬ。
「毎度お訪ね下さるので、却《かへ》つて私《わたくし》は迷惑致すのですから、どうか貴方から可然《しかるべく》御断り下さるやうに」
「当人もお気の毒に思うてあの様に申すで、折角ではありますけど、決して御心配下さらんやうに、のう」
「お見舞に上りましてはお邪魔になりまする事ならば、私《わたくし》差控へませう」
満枝は色
前へ
次へ
全708ページ中344ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング