りなのだけれど、私は気になつてね。それも出世して立派になつてゐるのなら、さうも思はないけれど、つまらない風采《なり》をして、何だか大変|羸《やつ》れて、私も極《きまり》が悪かつたから、能くは見なかつたけれど、気の毒のやうに身窄《みすぼらし》い様子だつたわ。それに、聞けばね、番町の方の鰐淵《わにぶち》とかいふ、地面や家作なんぞの世話をしてゐる内に使はれて、やつぱり其処《そこ》に居るらしいのだから、好い事は無いのでせう、ああして子供の内から一処《いつしよ》に居た人が、あんなになつてゐるかと思ふと、昔の事を考へ出して、私は何だか情無くなつて……」
彼は襦袢《じゆばん》の袖《そで》の端《はし》に窃《そ》と※[#「※」は「目+匡」、227−14]《まぶた》を※[#「※」は「沙/手」、227−14]《す》りて、
「好い心持はしないわ、ねえ」
「へええ、そんなになつてゐるのかね」
母の顔色も異《あやし》き寒さにや襲はるると見えぬ。
「それまでだつて、憶出《おもひだ》さない事は無いけれど、去年逢つてからは、毎日のやうに気になつて、可厭《いや》な夢なんぞを度々《たびたび》見るの。阿父《おとつ》さんや
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