りも儚《はかな》き昔の恋を思ひて、私《ひそか》に楽むの味《あぢはひ》あるを覚ゆるなり。
かくなりてより彼は自《おのづか》ら唯継の面前を厭《いと》ひて、寂く垂籠《たれこ》めては、随意に物思ふを懌《よろこ》びたりしが、図らずも田鶴見《たずみ》の邸内《やしきうち》に貫一を見しより、彼のさして昔に変らぬ一介の書生風なるを見しより、一度《ひとたび》は絶えし恋ながら、なほ冥々《めいめい》に行末望あるが如く、さるは、彼が昔のままの容《かたち》なるを、今もその独《ひとり》を守りて、時の到るを待つらんやうに思做《おもひな》さるるなりけり。
その時は果して到るべきものなるか。宮は躬《みづから》の心の底を叩《たた》きて、答を得るに沮《はば》みつつも、さすがに又|己《おのれ》にも知れざる秘密の潜める心地《ここち》して、一面には覚束《おぼつか》なくも、又一面にはとにもかくにも信ぜらるるなり。
便《すなは》ち宮の夫の愛を受くるを難堪《たへがた》く苦しと思知りたるは、彼の写真の鏡面《レンズ》の前に悶絶《もんぜつ》せし日よりにて、その恋しさに取迫《とりつ》めては、いでや、この富めるに※[#「※」は「厭/食」、読
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