つひ》には容《い》れられなくなるのは、男の面目ではありませんよ。私はそれが何より悲い。此方《こつち》に大見識があつて、それが世間と衝突して、その為に憎まれるとか、棄てられるとか謂ふなら、世間は私を棄てんでも、私は喜んで阿父さんと一処に世間に棄てられます。親子棄てられて路辺《みちばた》に餓死《かつゑじに》するのを、私は親子の名誉、家の名誉と思ふのです。今我々親子の世間から疎《うとま》れてゐるのは、自業自得の致すところで、不名誉の極です!」
眼《まなこ》は痛恨の涙を湧《わか》して、彼は覚えず父の面《おもて》を睨《にら》みたり。直行は例の嘯《うそぶ》けり。
直道は今日を限と思入りたるやうに飽くまで言《ことば》を止《や》めず。
「今度の事を見ても、如何《いか》に間が恨まれてゐるかが解りませう。貴方《あなた》の手代でさへあの通ではありませんか、して見れば貴方の受けてゐる恨、憎《にくみ》はどんなであるか言ふに忍びない」
父は忽《たちま》ち遮《さへぎ》りて、
「善し、解つた。能《よ》う解つた」
「では私の言《ことば》を用ゐて下さるか」
「まあ可《え》え。解つた、解つたから……」
「解つたとお言
前へ
次へ
全708ページ中296ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 紅葉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング