は小鬢《こびん》を掠《かす》り、肩を辷《すべ》りて、鞄《かばん》持つ手を断《ちぎ》れんとすばかりに撲《う》ちけるを、辛《から》くも忍びてつと退《の》きながら身構《みがまへ》しが、目潰吃《めつぶしくら》ひし一番手の怒《いかり》を作《な》して奮進し来《きた》るを見るより今は危《あやふ》しと鞄の中なる小刀《こがたな》撈《かいさぐ》りつつ馳出《はせい》づるを、輙《たやす》く肉薄せる二人が笞《しもと》は雨の如く、所嫌《ところきら》はぬ滅多打《めつたうち》に、彼は敢無《あへな》くも昏倒《こんとう》せるなり。
檳「どうです、もう可いに為ませうか」
弓「此奴《こいつ》おれの鼻面《はなづら》へ下駄を打着けよつた、ああ、痛《いた》」
衿巻|掻除《かきの》けて彼の撫《な》でたる鼻は朱《あけ》に染みて、西洋|蕃椒《たうがらし》の熟《つ》えたるに異らず。
檳「おお、大変な衂《はなぢ》ですぜ」
貫一は息も絶々ながら緊《しか》と鞄を掻抱《かきいだ》き、右の逆手《さかて》に小刀を隠し持ちて、この上にも狼藉《ろうぜき》に及ばば為《せ》んやう有りと、油断を計りてわざと為す無き体《てい》を装《よそほ》ひ、直呻《ひたうめ
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